大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和48年(ラ)21号 決定

抗告人 有限会社馬場商店

右代表者代表取締役 馬場熊喜

右代理人弁護士 田中光士

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨および理由は、別紙記載のとおりである。

抗告理由(一)について。

更生計画が変更されたときは、旧計画により選任された取締役で変更計画において留任することを定められなかった者は変更計画の認可決定の時に解任されたものと解するのが相当である。そして、管財人が旧計画により選任された取締役に代えて新たな者を取締役に選任する旨の変更計画案を提出するのに旧計画により選任された取締役を解任した上でなければならないということはない。したがって、本件記録により明らかなように、本件管財人が本件旧計画により選任された弥富正勝外五名の取締役に代えて新たに大津淳一外六名を取締役に選任する旨の本件変更計画案を提出するに際し、右弥富正勝外五名の取締役の解任手続をしなかったからといって、違法とはいえないので、抗告人の主張は理由がない。

同(二)について。

本件記録および審尋の結果によれば、

(1)  本件旧計画による馬場熊喜、中山源吾等の新株引受権は払込期日である旧計画の認可決定の日から一年後の昭和四六年九月三〇日までにその払込がなかったので失権していた。

(2)  そして、更生会社は、右払込がないため、金融機関からの融資もえられず、その他の出資者もなく、資金難に陥り、ことに約一、〇〇〇万円の滞納社会保険料の支払に苦慮し、管財人は、旧計画の出資者に出資を求めることを第一とし、出資者を物色していたが、成功せず、遂に管財人は昭和四六年一一月三〇日更生手続の廃止の申立をするにまで立至った。

(3)  そして、更生会社の右状況を関係人に知らせるため昭和四七年二月七日関係人集会が開かれたが、同集会において右馬場、中山から提案された馬場が佐賀板紙株式会社に納入する原料板紙月一、〇〇〇瓲を一瓩一円高く買ってもらって月金一〇〇万円を更生会社に提供するという案も実現せず、また、その際管財人から馬場、中山に対し昭和四七年四月末日までに支払うべき社会保険料金四〇〇万円に相当する金員の出資を求めたことはあったが、管財人から右両名に改めて新株の引受を求めたようなことはなかった。さらに、管財人は、同年四月九日馬場、中山と会見し、社会保険料として同月末日までに支払うべき金四〇〇万円相当の出資を依頼したところ、右両名はゴールド製紙株式会社に更生会社の企業診断をしてもらうことを求め、その結果がよかったら右金員を出資すると返答した。そこで、ゴールド製紙へ更生会社の企業診断を依頼したところ、同月一三日同社の営業課長および製造課長が更生会社に来社して企業診断をした。ところが、同月二一日馬場、中山は管財人に対し前には診断結果がよかったら出資してよいといっていたのに、診断結果がよくても出資しないといい出した。

(4)  そこで、管財人は、やむなく同日ゴールド製紙と交渉して差当り必要な金四〇〇万円の融資を願い、さらに診断結果の次第で同社の支援を求める旨の申入れをした。そして、同月二五日同社々長大津淳一が更生会社工場を視察し、翌二六日金四〇〇万円を融資する旨を管財人に電話通知し、同年五月一日同社から更生会社に対し金四〇〇万円の貸付がなされ、一日遅れではあったが社会保険料の支払がなされ、更生手続の廃止を免れた。

(5)  その後同月一七日中山は管財人に対し更生会社への出資を申入れたが、管財人は、旧計画案作成の際馬場、中山が共に仕事をしたくない者を出資者とするなら出資をしないといったこともあったので、中山に対しすでに出資をしているゴールド製紙の同意を得ることを求めたところ、同社はこれに同意しなかった。

(6)  そこで、管財人は、これまでの出資のいきさつから、同年六月一二日ゴールド製紙関係者を取締役に選任し、これに新株を引受けさせることとする本件変更計画案を作成した。

(7)  その後も管財人は、馬場、中山とゴールド製紙との調整を試みたが、成功せず、同年一〇月二日開かれた変更計画案決議のための関係人集会において、変更計画案は更生担保権者の組では全員の同意を得られたが、抗告人を含む更生債権者の組では法定の同意が得られなかった。そこで、この事態を収拾するため、同日管財人、馬場、中山その他が更生会社に集まって協議した。その際、管財人は馬場、中山に対し変更計画案に法定の同意が得られなかったので、このままでは破産に移行する外はないが、馬場、中山の真意は破産にあるのかと問うたところ、両名は、そうではなく、ゴールド製紙を排除して自らが更生会社を経営するといったので、管財人はそれならゴールド製紙が出した金員を肩替りして引受ける外ないが、直ちにその金を支払う用意があるかといったところ、馬場、中山は翌日回答するとした。翌日の馬場、中山の管財人への回答は更生会社の経営を引受け、ゴールド製紙が出した金員は支払うが、その時期は、馬場、中山を取締役とする登記が終った時であるというのであった。そこで、管財人は、その時までにゴールド製紙がすでに金二、〇〇〇万円以上を出資しているのに、馬場、中山は変更計画の認可決定をまって出金するというのであり、その他馬場、中山の従前の態度からみて、変更計画案に従って更生会社の更生を図る外ないと考え、同月一九日原裁判所に対し変更計画案に不同意の更生債権者の組に対し会社更生法第二三四条の適用を求めた。

(8)  そこで、原裁判所は、同条第一項第三号による更生債権者の権利の鑑定を命じたところ、鑑定人は右更生債権者の権利の価格は零であると鑑定した。しかし、管財人は事態解決のため更生債権者の権利の一一・九パーセントを支払う案を上申したところ、原裁判所は、昭和四八年一月一二日その裁量で右権利の一五パーセントを支払うこととし変更計画の認可決定をした。

以上の事実を認めることができる。

以上認定のとおり管財人が昭和四七年二月七日の関係人集会の際馬場、中山に求めたのは、当面の更生会社に対する貸付金であって、抗告人主張のように馬場、中山の旧計画による新株引受権の失権後の新たな新株の引受ではない。その他以上認定の経過に照せば、原裁判所の認可した本件変更計画が公正衡平を欠き違法であるとはいえず、抗告人の主張は理由がない。

その他本件記録および審尋の結果を精査しても、原決定にはこれを取り消すべき違法は見当らない。

そこで、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、抗告費用の負担について会社更生法第八条、民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 内田八朔 裁判官 矢頭直哉 美山和義)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例